赤沢の森の精

大橋貞子

「ねざめの床」で一休みした太郎は滔とうと流れている木曽川の上流へ行ってみたくなりました。
 暫く行くと、西の方から、もっときれいな水が流れ込んでいるのを見てそちらへどんどん進んで行ってしまいました。
 田植の終ったばかりの土手には黄色が少し入った紫色のやさしいあやめが咲いていたり、山すそには白い小花のうつぎも咲いていてゆったりとのどかな空気にふれ乍ら更に上流へ……途中落人のお姫さまが祀られている姫宮では手を合わせどんどん奥へ行きました。
  ひのきやさわら等常緑の木が沢山生えている林や森を通ってとうとう赤沢に着いていました。すがすがしい香りに混って、ほのかなおおやまれんげの甘い香りもただよっていました。
 そんなたたずまいの中にひときわ明るく光ってさえ見える所にあどけなさが残っている可愛らしい女の子が現れました。
 何百年も生き続けている森、赤沢の森の精とも言える美林ちゃんでした。