浦島太郎と二匹の蝶と美林ちゃんの物語

水澤かず子

  ある日太郎が亀を連れていつもの岩場で釣り糸をたらして釣をして居ると、何処からとも無く、なんともいえない香しい匂いがして来るではありませんか、太郎が匂いのする方を見ると、草むらからささゆりの花が二三輪咲いて居て、そこに一羽の大きな黒い蝶が太郎を見ているかの様に静かに羽を休めながら何とも言えない匂いをかもし出していて太郎が気が付くとその蝶は、ひらりひらりと太郎の頭の上を輪を描く様に飛び回り太郎は釣りをしていることも忘れて一匹の蝶に誘われる儘に釣り場を離れ、蝶がまるで太郎に、おいでおいでをしているかの様に、山奥え山奥え誘っていき峠を越えて山を下って行ったら大きな川に出て、蝶は太郎を誘うかのように川を下って行った。
 飛んでいた蝶が土の上に静かに羽を休める様に止まり土に管を出して居た、太郎がその場に行くと何とも言えない匂いが地面からして来て太郎は蝶の仕草に驚いた。花に止まって居るのではなく土から水を吸い上げているように見えた。
 やがて蝶は太郎の傍に来た、太郎は驚いた、その時何とも言えない匂いをかもし出し、今迄より余計高貴な匂いを蝶が出しその匂いに誘われて太郎は、またまた山奥え山奥えと誘われていき太郎が気が付いた時には、神秘な川の淵に居て先程までその岩場に居て釣りをして居たかの様な錯覚をした。近くの山々は大きな大きな大木が茂り、太郎はその茂みの深さにまたまた驚いた。川の水は神秘な緑色にその淵の美しさは、本当に竜宮城の乙姫様が今にも出て来そうな気がした、余りの懐かしさに岩の上から淵を眺めているとどこからともなく蝶の匂いがして振り返ると先ほどの蝶の他に変わった蝶が何匹かで、「おおやまれんげ」の花の上を飛んで居て先程の蝶が太郎の近くに寄ってきて太郎においでおいでをする様に「しゃくなげ」の花の上をひらひらと舞って居て、花の影から、一人の女人が太郎の来るのを待って居たかのように、にこやかなお顔で、「おおやまれんげ」の花を持って居て、太郎に近づいて来て、その花を太郎が受け取ろうとした時、太郎は驚いた。
  寝覚の床から太郎を誘って来たあの蝶と同じ匂いをして居たので、太郎はびっくりした。余りにも気品なお顔をしたお方が、こんな人里離れた山奥に住んで居るのが不思議で成らなかった。姫様の周りにいる蝶は(みかどあげは蝶)姫様をお守りして居る蝶でした。姫宮の姫は、数百年前に、平家と源氏の戦いで天皇家の姫君で有ったが、平家の侍に追われて京都から美濃を通り木曽川沿いに川皐月を頼りに上松の高倉を通り高倉峠を越えて赤沢迄逃げて来て、逃げ切れずに深い淵に身を投げて亡くなった、その姫が天女と成り天女になられた姫様とは知らず、太郎は、赤沢の美林で、天女と成られた美林ちゃんと結婚して楽しい毎日を過ごして、やがて太郎ちゃんは仙人と成って、寝覚の床の里で、床の山を守り亀と暮らし、美林ちゃんは、赤沢の森を守り、お互いに行き来して仲良く暮らしたとさ。めでたしめでたし!
おわり